2022-01-01から1年間の記事一覧

12℃

今日は一日中寒くって頬に触れた落合さんの鼻先は冷たかった 忍者の授業をする塾の話をしてくれたので用意していた二万円は結局渡せずじまいとなってしまった ここは今日に限ってエアコンが壊れているらしい 雁の足はチョコレート 軽く引っ張ると離れる青白…

クレンジングバーム

クレンジングバームをすくい取るときがいちばん一日という単位を実感する。付属の小さなスパチュラひとすくいで一日分。蓋を開けると一日前の跡があるので、その横に新しい跡をつくる。君は一年をどう測る?と歌う歌があったけれど、愛なんかよりもやっぱり…

22/09/04

暑い夜。どこか、アジアの騒がしい街の、食堂の入り口横のテラス席に座っている。5、6人での旅行中のようだった。料理が出てくるのを待っていると店内から叫び声が聞こえた。そのあとすぐに銃声らしい爆発音が聞こえたので地面に伏せる。人が出たり入ったり…

22/07/03

都会で知り合う人たちのほとんどは田舎から出てきた似非都会人なので、結局のところ如何にどちらが都会人らしく振舞えるかというのが、垢抜けているかどうか、ひいては魅力に係る問題になるのです。訛りが抜けているのはもちろんのこと、いろんな良いお店を…

湖へ

あり得る場所。砂漠、洞窟、海辺、空き家、車内、プール、雪原、ショッピングモール。どこを探しても誰もいないし、私たちはそこから出られない。でもそれで良くて、なぜならそこへはいつも逃げるように辿り着くから。あの子が抱えている湖は冷たく深く澄ん…

おまじない

僕の混乱は収まる気配がなくむしろ発散の傾向にありもう春ですからねと恐ろしいおまじないなどを食みながら木蓮をまじまじとみる。小学校の裏庭に木蓮が植わっていたということは憶えていてもそれがどんな色で形でどんな枝の伸び方をしていたか肝心なことは…

水曜日

相変わらず蛍光灯をつけられなかった。蛍光灯をつけるということは、ここにいますよという宣言と同じだった。宣言をすると気付かれてしまう。宗教勧誘とか受信料の集金とか隣の隣の隣に住む人に捕まってしまう。インターホンが鳴る。玄関を開けたら、うっか…

私信

前略 私はちゃんとした人間ではなくて、UNICEFの募金を募るお兄さんと話して月三千円の寄付を検討しているふうに軽薄にお話ししているだけなのです。むかし慕っていた人に今はもうそうではないと仄めかすいやな奴なのです。せっかく与えてもらったヒントだっ…

噛む

あれは?と聞かれてその時ようやく気が付きました。気が利かない私が悪いんです。言われなくても印刷して持ってくるべきでした。私の顔と手元を見つめる無言の7秒間がありました。吐き出した息そのまま、その人は自分用の資料の最後のページを千切って渡しま…

賀正

寝ぼけたまま、私は私と手を繋ぐ。冷たくなった指先を布団の中で絡ませる。ぎこちなさと手首側に残っている熱が心地よく、私はまた沈みかける。母と妹とたこ焼きを作る夢を見た。水っぽい生地をこぼしてウールのスカートを汚した。猫を持ち上げていた。 一年…