切火

望遠鏡、お説教、透明度、ご名答。桃源郷? 金平糖? 要検討、としたってどうしたって負け。ほうけていたら切り傷のような二月は鮮烈、しゃらしゃらと鳴るゼムクリップの冷たさに救われて、いくつもの正しい曇り空、スノードームのその目を嫌う。そうすれば…

23/10/--

深く吸い込むと指先が冷たくなる。“Food and water, two essentials.” AFNは1時間ごと、3分間だけニュースを読む。指先が冷たい。“The Eagle, serving America’s best.” 煙のような光が降る道を走らせる。窓を開けて車内の空気を新しくする。 * いつかあな…

25歳

マスクを外すと別の意味で怖がられた口裂け女はマスクを外さなくなった。夜中、道で出会ったその人は、白いマスクが外れたことには気がついたが、口が耳まで裂けていることには気がつかなかったのだ。「ちょっと、なんですかやめてください、近付かないでく…

on the sunny side of the street

Esperanza Spalding performing "On The Sunny Side Of The Street" (2016) という動画を久しぶりに見た。ずっと前に高評価をつけていた動画だった。元々好きな曲だったけど、こんなに楽しそうに素敵に演奏する人がいるんだと思って、一時期ずっと気に入って…

四月

朝遠く人身事故の文字ひかる その都度きみを思い出してた 凍らない海を見ていた(この先も)アンナ死ぬれば吾は生かされむ わたくしと致しましても諦めて春に臨んでゆく所存です * 妹はシンディ私はマドンナと言われ育った呪い解けずに 父からの花束は枯れ…

自らの言葉で世界は固められ、他者の言葉で世界は解かれる

箱庭では

・「俺も生きていると思うよ」と、隣の席に座っている男がその向かいに座っている女に言った。 ・窓の写真集を眺めているとだんだん、室内にいる誰かがこちらに気がついてくれるのを待ち続けているような気がしてきて、涙が出てきてしまう。 ・月が黒い画用…

23/01/14

好きな男の前で干支さえ分からないふりをするあなたが嫌いです あなたを嫌いになる私は本日ずっと寂しいです

12℃

今日は一日中寒くって頬に触れた落合さんの鼻先は冷たかった 忍者の授業をする塾の話をしてくれたので用意していた二万円は結局渡せずじまいとなってしまった ここは今日に限ってエアコンが壊れているらしい 雁の足はチョコレート 軽く引っ張ると離れる青白…

クレンジングバーム

クレンジングバームをすくい取るときがいちばん一日という単位を実感する。付属の小さなスパチュラひとすくいで一日分。蓋を開けると一日前の跡があるので、その横に新しい跡をつくる。君は一年をどう測る?と歌う歌があったけれど、愛なんかよりもやっぱり…

22/09/04

暑い夜。どこか、アジアの騒がしい街の、食堂の入り口横のテラス席に座っている。5、6人での旅行中のようだった。料理が出てくるのを待っていると店内から叫び声が聞こえた。そのあとすぐに銃声らしい爆発音が聞こえたので地面に伏せる。人が出たり入ったり…

22/07/03

都会で知り合う人たちのほとんどは田舎から出てきた似非都会人なので、結局のところ如何にどちらが都会人らしく振舞えるかというのが、垢抜けているかどうか、ひいては魅力に係る問題になるのです。訛りが抜けているのはもちろんのこと、いろんな良いお店を…

湖へ

あり得る場所。砂漠、洞窟、海辺、空き家、車内、プール、雪原、ショッピングモール。どこを探しても誰もいないし、私たちはそこから出られない。でもそれで良くて、なぜならそこへはいつも逃げるように辿り着くから。あの子が抱えている湖は冷たく深く澄ん…

おまじない

僕の混乱は収まる気配がなくむしろ発散の傾向にありもう春ですからねと恐ろしいおまじないなどを食みながら木蓮をまじまじとみる。小学校の裏庭に木蓮が植わっていたということは憶えていてもそれがどんな色で形でどんな枝の伸び方をしていたか肝心なことは…

水曜日

相変わらず蛍光灯をつけられなかった。蛍光灯をつけるということは、ここにいますよという宣言と同じだった。宣言をすると気付かれてしまう。宗教勧誘とか受信料の集金とか隣の隣の隣に住む人に捕まってしまう。インターホンが鳴る。玄関を開けたら、うっか…

私信

前略 私はちゃんとした人間ではなくて、UNICEFの募金を募るお兄さんと話して月三千円の寄付を検討しているふうに軽薄にお話ししているだけなのです。むかし慕っていた人に今はもうそうではないと仄めかすいやな奴なのです。せっかく与えてもらったヒントだっ…

噛む

あれは?と聞かれてその時ようやく気が付きました。気が利かない私が悪いんです。言われなくても印刷して持ってくるべきでした。私の顔と手元を見つめる無言の7秒間がありました。吐き出した息そのまま、その人は自分用の資料の最後のページを千切って渡しま…

賀正

寝ぼけたまま、私は私と手を繋ぐ。冷たくなった指先を布団の中で絡ませる。ぎこちなさと手首側に残っている熱が心地よく、私はまた沈みかける。母と妹とたこ焼きを作る夢を見た。水っぽい生地をこぼしてウールのスカートを汚した。猫を持ち上げていた。 一年…

21/11/19

その人が昨日何を着ていたか、ちゃんと思い出せなくて、それがどういう意味かを考えていた。込められた意味があればいいと思うようになったのはいつからだろう、もう惰性で思っているのかもしれない。電車の窓から見える風景は生活を忘れた抽象画になって、…

口をゆすぐとき

もしもいま私が誰かの母親だったらその子に心配かけてしまうだろうな、と思った。母親が普通の人間であることを忘れないようにしたいと思っていても、どこかで揺らがないでいてほしいと願っていて、むかし母が嘔吐している気配で目が覚めた深夜や苛つきなが…

おじいちゃんの話

ミサが病気になった。最近は夏バテして食欲がないと言ってすぐに自室へ行ってしまうし、夜中に何度も目を覚ましているようだった。頭痛薬の空箱が捨てられているのを見つけた日、あなたはミサに一度病院に行くように言っていたのだった。ミサが医者から聞い…

不透明・白黒

からだが固まる気配がした。金縛りのときに空を飛ぶイメージをするとその通りに飛べるという話を聞いたので、実践してみようと、まずは全身を意識した。すぐに身体はこわばり、動けなくなる。上に、上に、浮かぶ、ずれる、ずれている。飛んだあとってどうな…

黒い犬と

・例えばそれぞれに決まった寿命があるとして、どこまで生きてきたと思う? 私たち80とか100まで生きられるかな。生きられそう。でも実はもう人生半分過ぎていたりして。あと8分です、って余命宣告されるコントあったよね。私はあと何分なんだろう。君は、あ…

他人として

嫌な目をしている。 その人は卒業アルバムをめくって、生徒の顔と名前をひとりひとり確認するように見ていく。このクラスではこの子が人気そうだけどあたしはこっちの子のほうが好きだなあ、この子はサッカー部って感じの顔している、あれ、この子、あなた小…

21/07/08

好きになりそうなバンドを見つけた。怖いって書いたら怖くない気がしてきた。雨の日に部屋の電気をつけること、下の句を答えよ。繰り返してもいいと思える日はあるだろうか。人差し指の外側が切れた。トーストから落ちたジャムが温かくてどきどきした。電話…

bhaja

あのバス停の前、美容室だと思っていたけれど本当は外国人の家族が住んでいたのですね。隣の隣の町の高校へ通うあの人が7時半の便を待つバス停の前。前というか横というか。なんとなく避けていました。お休みの日のお昼ごろ、久しぶりにそこの道を通ったら美…

五月

乾いたパンを押し流す牛乳 光 白い朝に正しいシャツを着てその素直な新しさが恥ずかしくなってごまかしましたが気がつきますか 見つけてしまった提供された断片を拾い集めて扉や窓を思い浮かべていることを知った いらない 許されたい 心許ない毛先では庇う…

ため息

遠山さんは言う。 「くだらないでしょう。どうして私に言うの、って思うときもある。それくらい自分でやればいいのに、とかね。でもね、いいの。私たちはずっとどこまでも他人だから、せめて彼にとって一番近い他人でいられるようにと思って、私が好きでやっ…

午後

お昼寝に付き合ってくれ 畳んだままの布団 郵便屋さんのバイクの音 目を覚ましたら少し日の傾いた夕方で 寂しくならないように麦茶を飲んで その正しさでごまかして 寝起きの怠さが残る身体でスーパーか銭湯か居酒屋まで歩きたい 春の柔らかい風を感じながら…

第一段

春は夜。あらゆることから匿ってくれる夜。少しぼやけた月が美しく、桜の花は白く光る。もうこれからは凍えないで散歩ができる。 夏は夕方。余韻のような夕方。七時頃まで空は明るく、紫やピンクの夕暮れは世界の終わりのよう。暑すぎた日には夕立が降り、街…