25歳

マスクを外すと別の意味で怖がられた口裂け女はマスクを外さなくなった。夜中、道で出会ったその人は、白いマスクが外れたことには気がついたが、口が耳まで裂けていることには気がつかなかったのだ。「ちょっと、なんですかやめてください、近付かないでください」「反マスク反ワクチンって感じですか」と言われた。マスクをして鬱々と街を歩いていても、もう誰も不審な目を向けてこない。そういえばポマードをつけている男なんてもういなくなった。今はみんないい香りを纏わせている。

私、綺麗?と訊くこともなくなった。あるとき、口が裂けているところを見せても、「あなたはそのままで美しいよ」「ルッキズムに囚われているのは勿体ないよ」と美しくて賢そうな人たちに言われて、恥ずかしくなったから。それでもまだ、目元を整形できる、生きている女の子たちが羨ましい。最近は簡単な整形が流行っていて、失敗することはそんなに無さそうだ。私はずっと25歳だけど、ずっと死んでいる。今もし生きていたら生きやすいのかもな、でも今は生きづらいな、死んでいるけど。

マスクを外して街を歩く人が増えてきても、口裂け女はまだマスクを外せない。マスクを外さない口裂け女に「外せばいいのに」と意見する人はいない。誰も彼女に気がつかない。