23/10/--

深く吸い込むと指先が冷たくなる。“Food and water, two essentials.” AFNは1時間ごと、3分間だけニュースを読む。指先が冷たい。“The Eagle, serving America’s best.” 煙のような光が降る道を走らせる。窓を開けて車内の空気を新しくする。

いつかあなたは郵便局員で、良く晴れた秋の日、バイクに乗って午後の配達へ出かけている。銀杏並木の黄色い道を走っていると、横から車が出てきた。危ないと思った瞬間、バイクはなぎ倒され、あなたの身体は地面に強く打ち付けられる。倒された勢いで蓋が開いたのだろう、郵便物が地面に広がっている。生暖かいものがあなたの頬を伝い、冷えていく。朦朧とする意識の中で、眼前の光景を美しいと感じている。銀杏と手紙が散らばった道に爽やかな風が吹いた。

“Food and water, two essentials.”

もしもし、こちらは真夜中、ライブカメラが映したのは砂色の夕暮れで、飛行機と風の音だけが聞こえた。20分も経つと暗くなって、地面と空の境界を見分けるのが難しい。遠くにたった一つだけ灯りがついている。世界で49人が同じ画面を見ている。暗闇と朝日を待つ街を眺めている。カメラの背後にいる人のため息が聞こえたあと、カメラはズームアウトして街はより広く映された。灯りが一つだけじゃないことを知ったのは、世界で37人だった。
私は眠らなくてはならない。水を飲まなくてはならない。
また指先が冷えている。

月は、空に開いている穴です。のぞき穴かもしれないし、通気孔かもしれない。大きな指が穴を塞いで、そして開きます。満月の夜、光が差す方をじっと見つめていると―本当によくよく見つめていると―あなたは吸い込まれて、外へ放り出されてしまいます。
「外ってどこ?」「どこでもない。僕たちには知り得ない。ただ穴が開いている、僕たちの頭上に開かれている。今はそれだけで安心できる」