bhaja

あのバス停の前、美容室だと思っていたけれど本当は外国人の家族が住んでいたのですね。隣の隣の町の高校へ通うあの人が7時半の便を待つバス停の前。前というか横というか。なんとなく避けていました。お休みの日のお昼ごろ、久しぶりにそこの道を通ったら美味しい匂いがして、つい立ち止まってちらっと覗いてしまいました。そうしたら目が合った。キッチンが道路側にある間取りで、思っていたよりも近くにいらっしゃったのは若い女の人でした。その人は微笑んで何も言わずに、炒めていたものを小皿にとってこちらへ向けてくれました。炒めていたのはじゃがいもでした。指でつまんで食べました。乱切りだからホクホクしていました。そこらのスーパーで買える調味料を総動員してもきっと再現できない、異国の味でした。

いつだったか、チョコレートを持ってあの家に行きました。あの家には4人住んでいます。女の人と、男の人と、子どもがふたりです。子どもたちは多分きょうだいで、弟のようなお兄ちゃんと姉らしい妹さんです。キャンディ包みのチョコレートがたくさん入った袋を抱えてあの家へ行きました。その日、私はチョコレートを子どもたちにあげるという目的を持っていました。お兄ちゃんがひとつひとつ、床にチョコレートを並べていきます。いつになく真剣でした。妹さんはその並べられたチョコレート群の、きゅるきゅると光るプラスチックの包装を、ひとつひとつ撫でて喜んでいました。暖かい日でした。私はチョコレートが溶けてしまわないかが気になって仕方なかった。お兄ちゃんはすべてを一列に並べ終えてすぐ、めちゃくちゃにかき集めました。それまでが静かな時間だった分、私はひどく驚いてしまって、結局それから先のことが思い出せません。妹さんの分のチョコレートは残ったのかどうか、それだけでも思い出したいのに。