第一段

春は夜。あらゆることから匿ってくれる夜。少しぼやけた月が美しく、桜の花は白く光る。もうこれからは凍えないで散歩ができる。

夏は夕方。余韻のような夕方。七時頃まで空は明るく、紫やピンクの夕暮れは世界の終わりのよう。暑すぎた日には夕立が降り、街を一旦落ち着かせてくれる。

秋は朝。二学期の朝。風の冷たさと快晴の青空がちぐはぐで、季節が変わりつつあることを知る。衣替えのタイミングを見計らう。

冬は昼。新しい昼。晴れた日は雪がきらきらと眩しい。陽光が一年で最も柔らかい。空が雨雪を蓄えた厚い雲に覆われる日も、押し付けがましくなくて良い。

「春はあけぼの」と始まる時点で、春を贔屓している気がする。一年の始まりは冬なのに、年度の考え方もまだ無いはずなのに、なぜ? 私も春が好き。