しりとり「す」攻め覚え書き

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小学生の頃、休日は家族でドライブに出かけることが多かった。市の端っこにある資料館、漁港の朝市、山奥の温泉、いろんなところへ行った。母と妹と私の3人で出かけることもあったし、ステップファザー(以下SF)も加わって4人で出かけることもあった。

ドライブに出かける日は朝早く起こされた。目を半分閉じたまま適当な服に着替えて、とりあえずお風呂道具とバスタオルを持って、車に乗り込む。母は行くと決めたらすぐに出発したい人で、もたもたしていると怒られた。起床後10分以内に出発する。立ち寄るコンビニは大体決まっていて、普段使いのローソンか、ガソリンスタンドの近くのローソンか、大きいおにぎりが売っているローカルのコンビニだった。朝ご飯と飲み物を買う。私は甘いパン、妹はしっかりめの朝食を選ぶことが多かった。母は必ずコーヒー、SFがいないときには煙草も買った(いつも各々自由に選んでいたけれど、元旦に初日の出を見に行くときだけは別で、全員肉まんにしていた)。コンビニに寄るころには車の冷暖房も効いてきて、その日のBGMの方向性も私と妹の間で決まっていた。

4人で出かけるとき、BGMはSFが決めた。ほとんど、クラシックか、ビートルズか、井上陽水とか懐メロだった気がする。当時小学生だった私と妹にとって面白くない選曲だった。妹がSFの影響でザ・ピーナッツにハマったときには、裏切られた、と内心思った。ある時、私が阿部真央を流したらSFと母に茶化されて、ちょっと落ち込んだ。SFの選曲はつまらなかったけれど、理解あるふりをした。SFに対して寛容であることが大事だった。今ではクラシックもビートルズも好んで聴く。井上陽水はたまに思い出して聴く。

後部座席から見えた風景をよく覚えている。A Day in the Life の迫ってくるようなオーケストラの音とすごい速さで通り過ぎる森の緑。ざわざわしていた。海は白く平らで、カナリアカナリアと呼びかける声が遠く滑っていくような気がした。

4人でのドライブ中に話すことがなくなると、SFの「しりとりでもするか」の一声でしりとりが始まった。始まると終わらない。途中、道の駅などに寄ったとしても、車に乗ったら再開する。そうして、誰かが拗ねるか寝るか、家に着くまで、しりとりは続けられる。母は少し気取って、国語教師みたいな言い方で国語教師のような言葉を返す。SFはカタカナ語に強く、難しい言葉をたくさん知っていた。年齢的にも一番語彙が少ない妹は、ひとつひとつの単語に熱を込めて参加した。延々と続くこの応酬から、私はす攻めを学んだ。す攻めはしりとりが大分進んで、普段なら使わないような語が出始めたころに仕掛ける。す攻めをしていることを誰かが指摘したら、スイス、スライス、と全員が対抗し始める。それになるべく立ち向かえるように、備えておくことが大事。す攻めは持久戦だ。逃げようとしたら連れ戻す。す攻め禁止と言われるまで執拗に続ける。

しかしそんな戦法を学んだところで、今どきしりとりをする機会なんて無くて、しりとりするくらいなら、音楽聴きながらぼんやりと外を眺めていたいと思っていた時期もあったけれど、無いなら無いで残念に思ったりもする。

当時から多少は語彙が増えて、す攻めの幅も広がった。小学生の時に蒐集していた「す」で始まって「す」で終わる言葉のすべてを思い出すことはできないけれど、新しくリストアップできるくらいには知っている。備えておきたい。いつかドライブに出かける時まで、たくさん集めておきたい。